交通事故加害者が死亡した場合の損害賠償義務と相続
加害者が亡くなると,損害賠償義務はどうなる?
交通事故の加害者が亡くなった場合,その損害賠償義務はどうなるのでしょうか。
人が亡くなると,原則として,その人の積極財産(資産)も消極財産(負債)も相続されます。
損害賠償義務も相続される
損害賠償債務も被相続人(加害者)の財産(消極財産=負債)ですので,相続人に相続されます。
相続人各自は,その法定相続分に応じて相続しますので,たとえば,夫が4000万円の損害賠償義務を負って死亡し,相続人はその妻(法定相続分2分と1)と,長男と二男(同4分の1ずつ)であれば,妻2000万円,長男1000万円,二男1000万円の支払義務をそれぞれ負うことになります。
相続人がこの相続債務を免れたいという場合は,相続放棄をする必要があります(相続した財産の限度でのみ債務を弁済する限定承認という方法もあります)。
上記の例で,夫が保険金額無制限の任意保険の被保険者になっていれば,妻子は自腹で損害賠償することはないので,基本的に相続放棄を考える必要はありません(もちろん,夫に他にも負債があった場合は,検討が必要ですが)。
相続放棄の期限
しかし,そうでない場合は,妻子は損害賠償で支払わなければならない額と,夫の積極財産の額を比較して,相続するか,放棄するかを判断する必要があります。
また,仮に,支払わなければならない額の方が大きいとしても,相続財産の中に,例えば自宅不動産などがある場合,放棄してよいか,判断に迷うことがあるでしょう。
相続放棄は,「自己のために相続の開始があったことを知ったときから3箇月以内」にしなければなりません。もっとも,この3か月の起算点は,「相続人が相続財産の全部または一部の存在を認識した時または通常これを認識しうべき時」とされています。
損害賠償債務という財産(負債)の存在を知らなければ,3か月はスタートしません。
夫が交通事故で死亡したようなケースでは,通常はその死とともに損害賠償義務の存在を知るでしょうから,3か月はすぐにスタートしますが,そうでないケースだと,家庭の事情によっては,被害者から支払請求を受けるまでスタートしない(したがって,請求を受けてから3か月以内なら相続放棄できる)ということもあり得ます。
また,交通事故の事実が判明していても,過失割合や後遺症の有無が問題になる事案では,それらの争点がはっきりするまで3か月がスタートしない,と解する余地もあります。
このような理由で,死亡後3か月を過ぎて相続放棄することはできる(家庭裁判所に受理してもらえる)余地はあるものの,債権者(交通事故の被害者)がどう出るかは別問題です。債権者としては,「負債を知ったとき」の時期の理解に納得がいかなければ,たとえ家裁が相続放棄を受理していても,相続人に支払いを求める裁判を起こすことは可能です。
そうなった場合は,裁判所が判断を下すことになります。